「何を書くか」だけでなく「何を読むか」から心理状態を捉える――育児ストレスに関する研究論文が国際学術誌に掲載されました

このたび、私たちの研究論文「Blog-reading histories as networks: A proof-of-concept prediction of high parenting stress」が、国際学術誌 Computers in Human Behavior Reports に掲載されました。本研究は、徳島大学、株式会社サイバーエージェント、京都大学、北海道大学による共同研究です。
研究の背景:「何を読むか」にも心理状態は反映されるのか?
これまでの研究では、ブログやSNSに「何を書いているか」という投稿内容から、その人の性格や心理状態を推測できることが報告されてきました。
しかし、インターネット上では、自分で文章を書く人よりも、他の人が書いた文章を読むことの方が多いかもしれません。
そこで本研究では、「何を書いているか」だけでなく、「何を読んでいるか」という情報からも、その人の心理状態を捉えることができるのではないかと考えました。
具体的には、育児ストレスに着目し、保護者のブログ閲覧履歴と育児ストレスの関連を検討しました。
研究方法:約88万件のブログ記事を分析
本研究では、ブログサービス「Ameba」を利用し、18歳未満の子どもを養育している保護者980名にご協力いただきました。参加者には育児ストレスに関する質問紙に回答していただき、ストレスが高い群(425名)と低い群(555名)に分類しました。
さらに、過去3か月間のブログ閲覧履歴を分析しました。分析対象となったのは、合計881,354件のブログ記事と、保護者と閲覧記事を結ぶ1,262,033件の関係です。これらを「誰が、どのブログ記事を読んでいるか」というネットワークとして表現し、自然言語処理や社会ネットワーク分析の技術を用いて、育児ストレスとの関連を調べました。
主な研究結果
育児ストレスが高い保護者は、ストレスが低い保護者と比較して、次のような内容を含むブログ記事を多く読んでいました。
ネガティブな感情を表す言葉が多い記事
家族に対する否定的な感情が表現された記事
夫婦関係への不満について書かれた記事
子育ての困難について書かれた記事
自分自身を責める気持ちが表現された記事
つまり、育児ストレスが高い保護者は、同じような悩みや困難を扱う記事に関心を向けている可能性が示されました。さらに、「誰が、何を読んでいるか」というネットワーク構造を機械学習によって分析したところ、育児ストレスが高い保護者と低い保護者を、偶然よりも高い精度で識別できました。予測精度を示す指標であるAUCは0.662でした。AUCは0.5が偶然と同程度、1.0が完全な識別を意味するため、今回の結果は一定の予測可能性を示すものの、精度はまだ限定的です。
本研究の意義と今後の課題
今回の研究で興味深いのは、本人が発信した文章だけでなく、他者の文章を読むという行動にも、本人の心理状態に関する情報が含まれている可能性が示されたことです。SNSやブログの閲覧行動は、日常生活の中で自然に行われています。そのため、こうした情報を適切に分析することで、従来の質問紙調査とは異なる方法で、人々の心理状態を理解できる可能性があります。例えば、将来的には、育児に悩む保護者が必要な情報や支援にアクセスしやすくなる仕組みの開発につながるかもしれません。
ただし、今回の予測精度は、個人の育児ストレスを判定する実用的な検査としては不十分です。また、ネガティブな内容の記事を読むことが育児ストレスを高めるのか、それとも育児ストレスが高い人がそうした記事を選んで読むのかについても、今回の研究からは判断できません。
加えて、閲覧履歴から心理状態を推測する技術には、プライバシー保護や本人の同意、分析結果の利用方法など、慎重に検討すべき倫理的課題があります。
今後は、予測精度の向上や、時間的な変化を考慮した研究を進めるとともに、こうした技術を人々の心理的支援にどのように役立てられるか検討していきたいと考えています。
論文情報
論文タイトル: Blog-reading histories as networks: A proof-of-concept prediction of high parenting stress
著者:
Kenji Yokotani(横谷謙次、徳島大学)
Masanori Takano(高野雅典、株式会社サイバーエージェント)
Nobuhito Abe(阿部修士、京都大学)
Takahiro A. Kato(加藤隆弘、北海道大学)
掲載誌: Computers in Human Behavior Reports, Volume 24, Article 101331(2026)
論文はオープンアクセスで公開されており、どなたでも無料で閲覧できます。




























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